二人部屋の秘密

「あの野郎……!」
  妹・瑞穂(みずほ)の机の周りを引っかきまわしながら、怜美(さとみ)は女の子とは思えないような口調で叫んだ。
  大学に入ってはじめての秋休み。つい二、三日前まで悩まされていたテストも終わり、さあ、思いっきり遊びまくるぞ、と思い、ゲーム機をセットしたまではいいのだが、肝腎の、前に遊んだときのデータがセーブされているメモリーカードがいつもあるところに無い。
  ゲームをやるのは怜美と瑞穂しかいないので、瑞穂の部屋、といっても子供部屋を机や本棚で二等分した一角に過ぎないのだが、を捜し始めたのだが、彼女の部屋はおもちゃやがらくたなどがそこらへんに転がっているという状態で、どこが机でどこがベットかさえ分からない。
  こんなところで手の平に納まるほどのメモリーカードを見つけるのは、下手なRPGより難しい。
「くそー!  あっの野郎、どこに隠した!」
  メモリーカードを捜すのに疲れた怜美は瑞穂の机を思いっきり蹴った。

  怜美は本気で瑞穂に腹を立てていた。
  ゲームが出来ないのはこれで二度目だ。
  一度目は、つい昨日のことだが、ちゃんとゲームソフトがあるように見せかけて、その実、中身のディスクが唯の音楽ディスクにすり変わっていたのだ。
  後で分かったことだが、その日の朝、瑞穂が支度する短い時間に頭をひねり、ケース内にヒントを書いた紙を入れて捜し出せるようにしてあったのだが、ゲームをするのをとても楽しみにしていた怜美はその紙に全く気がつかなかった。
  悪いことに、怜美はそのことをゲームをする直前になって発見した。そのため、頭にかーっと血が上り、泣き、わめき、果ては近くにあった家具に八つ当たりのけりを入れるということまでした。
  さすがに今日はあきらめの気持ちが強く、自分の部屋に座り込んで妹の悪口をぶつぶつ言うことだけでとどまっているが、いくら日頃妹にいいようにあしらわれ、怜美もそれに慣れているとはいえ、これではやはり気持ちは収まらない。
「やっぱりさがそ」
  怜美は立ち上がると瑞穂の部屋へ行った。
  机の上にも、本棚にも、ベットの下にもない。ということは……。
〈そうだ、引き出し!〉
  瑞穂の机には一つだけ、鍵の掛かる引き出しがある。
  鍵はいつも瑞穂が肌身離さず持っているらしいが、一つだけ、この引き出しを探る方法がある。
  その昔、母を手伝って部屋を二つに区切ったときに見つけたのだが、瑞穂の机は後ろから見ると、上二つの引き出しの中身が丸見えなのだ。
  今、瑞穂の机はベランダに続く窓に接している。窓を開ければ引き出しの中身がちゃんと見えるのだ。
  瑞穂はこの事実を知らない。
「うっしっしっし……」
  怜美は窓を開け、瑞穂の机の後ろに周り込んだ。
  鍵の掛かる引き出しのほうには、何か本が入っているようだ。
〈何だろう……?〉
  左手を突っ込んで見えているものを掴み、手首が引っかかるのも気にせず力一杯引き出してみた。
〈こ、これは!〉
  左手にあったのは、瑞穂がこの前読んでいた少女漫画だった。その時怜美は「貸して」と言ったのだが手ひどく断わられ、その後部屋を隅から隅まで捜したがついぞ出てこなかったものである。
〈なるほど、こんなところに隠してたのか〉
  怜美は一人でほくそ笑んだ。
〈ということは……!〉
  怜美はもう一度左手を入れた。が、近くの本二、三冊は取れたのだが、奥のほうの本は取れない。
  怜美は思いついて自分の裁縫用長物差しを持ちだしてきた。
  物差しをうまく引っかけると、出てくる、出てくる。瑞穂好みの絵の漫画や瑞穂の好きな同人誌がわんさと怜美の横に積み上げられた。
「ひっひっひっひっ……」
  怜美は一人忍び笑いをしながら収穫物を自分の領域に持って行った。
  ゲームのことはいつの間にか頭の中からさっぱりと消え失せていた。

  瑞穂の机から持ち出した漫画本は、瑞穂が学校から帰る前に全て元のように返しておいた。だから瑞穂はこのことを知らない。
  妹の領域に侵入し、隠れて漫画を読むことに、怜美はほんの少しの優越感を覚えた。
〈でも、少し情けないかな……〉
  怜美はそう思いながらも、今でも時々瑞穂の部屋を荒らすのであった。

(終)
2002.12.9.  風城国子智(作者の現状と若干の注意)

WindingWind 風城国子智