カレーと匙

「このカレーの真の味は、全部食べなければ分からない」
 コンロの上のカレー鍋を前にして、兄が大仰に匙を振る。
「しかし全部食べてしまえば、弟に食べさせる分が無くなってしまう。だから一匙すくって味見をしたそのデータから、カレーがちゃんとできているかどうか判断する必要が……」
「御託はいいから早く食べよう」
 床に寝転んで兄を見上げた俺の言葉で、兄の額に青筋が立った。
「おっまえなぁ! 俺の統計学のみならず、数学全部赤点だったんだろうがっ!」
 明日の追試に向けて補講をしてやっているというのに。兄の言葉に、息を吐く。兄が教授をしている大学に入ったことは、間違いだったか。カレーを忘れて説教し続ける兄に、俺は肩を竦めた。
 

(終)
2015.8.17.  風城国子智(作者の現状と若干の注意)

WindingWind 風城国子智