心の炎/花火の刻/炎を含んだ 300字SS『火・炎』

心の炎 —明日の風に中世編—
 普段よりも明るい、しかし見慣れた天井に、息を吐く。
 ここは、自分の部屋の、箱ベッドの上。しかしなぜ、こんなに明るい時分から、自分はここに横たわっているのだろう? 動かない頭と、痛みを訴える身体に、禎理は小さく唸った。
「全く」
 その禎理の耳に、呆れを含んだ声が響く。
「なぜ、自分を犠牲にしてまで他人を助けようとするんだ」
 友人である須臾の詰るような視線に、禎理は小さく微笑んだ。
 なぜ、身を危険に晒してしまうのか、禎理自身にも朧気にしか分からない。心に燻る小さな炎のままに行動してしまう、それだけのこと。それでも。……また、須臾に迷惑をかけてしまった。禎理を睨む須臾の、悲しげな瞳の色に、禎理は小さく頭を下げた。

花火の刻 —桜花火—
 薄い上掛けに潜り込み、全ての音から耳を塞ぐ。
 それでも聞こえてくる、唸るような爆発音に、ユキは震える唇を噛みしめた。
 花火なんて、なぜこの世界にあるのだろう? 普段は自制している、汚れた感情を、薄暗がりに吐き出す。家族で花火を見に行った後で巻き込まれた、父と母と妹を失った交通事故。因果関係は無いはずの二つの物事が、ユキの心の中ではしっかりと結びついている。あの、炎は、……大っ嫌いだ。流れ落ちた涙を、ユキは布団の敷布で拭った。
 ユキの心の内を知っている、ユキを引き取ってくれた伯父夫妻も従姉妹のマリアも、夏の夜の間はユキが自室に閉じ籠もっていても放っておいてくれる。そのことだけが、ユキの心を軽くしていた。

炎を含んだ —幻想の青と白—
 嗅いだことの無い匂いが立ち昇る、炎を含んだ円筒形の機器に、かじかんだ手を曝す。
「電車、来ないねぇ」
 その機器の上で何か白いものを炙る老人の聞き取れない言葉に、尤理は首を傾げ、すっかり白くなってしまった硝子窓へと目を向けた。
 温もらない背中の震えが、暖かいはずの掌を冷たくする。町や村を人と共に管理する人工知能の補修は終わったが、これでは、帰れない。
 と。
 不意に、串に刺した白いものが差し出される。熱で膨らんだそれを尤理が受け取ると同時に、老人も、そして臭気も、消えた。
 何も無い、暖かくなった空間に息を吐き、手の中の串を見つめる。これは、食べられるもの? 香ばしい匂いにつられ、尤理は焦げた端を小さく囓った。

(終)
2016.12.3.  風城国子智(作者の現状と若干の注意)

WindingWind 風城国子智