三者三様 300字SS『年の瀬』

初めての餅つき —コネコビト—
 ぺったん、ぺったん。細い棒が取り付けられた太く短い棒が、円筒形をした木の器の中に入ったお米の粒をついて滑らかにしていく。棒の名前は『杵』、器の名前は『臼』。職場の餅つきの手伝いに駆り出された、保護者であるおさとさんが教えてくれた言葉を、コウサは小さく口にした。
「見てるだけで飽きませんかにゃ?」
 そのコウサの前に、小さな湯気が現れる。
「月では毎日お餅をついているのですかにゃ?」
 月には確かに、餅をつく兎の姿が映っている。しかし地球の兎であったコウサには、月のことは分からない。横に立つ、隣に住む白い髪のコネコの問いに首を傾げてから、コウサはコネコが持つ、小さな丸い餅が入った椀を受け取った。
(注:この物語は、相沢ナナコ様@タヌキリス舎が制作する「コネコビト」シリーズのスピンアウト作品です)


響く鈴の音 —狼牙の響—
 涼やかな音が、冷たい闇に溶ける。星の無い夜空を見上げて吐いた、蘭の息は、白く凍った。
 一年で最も陽が短い、一年の終わりの日、『狼谷』の霊的指導者である巫女は谷を巡り、すべての場所を祓い清める。そしてその夜、陽の光が復するまでの間、谷を巡り、鈴の音で谷を守るのが、巫女の代理たる蘭の職務。
 こんな小さな音で、谷を守ることができるのだろうか? すぐに消えてしまう鈴の音に、息を吐く。次の瞬間、背後に気配を感じ、蘭はその疑問を速攻で心に隠した。
「鈴の音を、絶やすな」
 今では蘭の前にしか姿を現さない『谷』の初代巫女、明の声が、蘭の背を強く叩く。
 この人がこの場所にいる限り、谷は大丈夫だ。蘭はこっそり口の端を上げた。
(注:狼谷の一年は冬至の次の日から始まります)


花を探して —明日の風に—
 春とは名ばかりの、冷たい空気に、息を吐く。
 それでも、この森に足を踏み入れた理由を思い出し、禎理はそっと、泥に汚れた雪が残る木々の根元を見回した。しかし、やはりまだ時期が早いのか、僅かな芽吹きすら見当たらない。これでは、新しい年を祝う日を飾ることができない。一輪でも良い、花を探して、持ち帰らねば。義務感に囚われるまま、禎理は冷たい残雪に足を濡らした。
 と。
「これを、やろうか?」
 目の前に差し出された、小さくも華やかな花を無数に咲かせた枝に、息が止まる。顔を上げると、森を支配する神の、含みのある笑顔が、あった。
「一晩の語りと引き替えでな」
 それ位なら、お安い御用。承諾の印に、禎理はにこりと、微笑んだ。
(注:マース大陸の一年は春分の日から始まります)


 

(終)
2015.12.5.  風城国子智(作者の現状と若干の注意)

WindingWind 風城国子智