依頼の色/白黒

依頼の色 —狼牙の響—
 赤と橙は茜で。黄色は刈安か黄蘗どちらか、いや緑と青をアイで染める為には両方必要。藍はアイを使うとして、紫は、……紫草が有るかしら? 無ければ二藍にするか。七色の染料に首を捻りながら、蘭は殊更大仰に息を吐いた。
 待ちわびた初孫に贈るとはいえ、虹色の『帯』を作れ、だなんて、正直面倒。人に頼むのだから、手間無く織れるものにしようとは考えないのか? 窓の外に見える、白髪頭と曲がった背を持つ男の去り行く影に、蘭はもう一度息を吐いた。
 それでも。
 腕によりをかけねば。一人、頷く。久し振りに生まれる『谷』の子に贈る、『谷』の風習に従った『帯』なのだから。その想いのまま、蘭は、白い経糸を掛けた簡素な機織りに向き直った。


白黒
 扉を開けた瞬間、刺激臭が鼻を突く。
 この匂いは、硝酸を薄めた腐食液。今日の尤はエッチングの版を作っているらしい。光の入らない窓際に置かれた机を慎重に見つめ続ける尤を確かめてから、彰は挨拶も無く一間しかない尤の部屋に上がり、買ってきた食料を手早く、殆ど何も入っていない冷蔵庫に突っ込んだ。
 前に来たときに書いていた水墨画は、気に入らなかったのか床の上に散らばっている。真っ白な画仙紙に書かれたその一つを、彰はそっと手に取った。
 素描、木版画、リトグラフ。尤が描く色は、白と黒のみ。それでも、その絵に極彩色が見えるのは何故だろうか? 壁も床も埋め尽くすように溢れている白と黒に、彰はただただ見とれていた。

(終)
2017.5.6.  風城国子智(作者の現状と若干の注意)

WindingWind 風城国子智