散歩する傘

 図書館から出たところで、降る雨に気付く。
 傘、持って来て良かった。息を吐いて、傘立てに目を移す。しかしながら。傘立てを何度見回しても、傘が見当たらない。どこにでも売っていそうな黒い傘でも、自分の傘。見失うことはない。と、すると。
 呻きを、何とか飲み込む。あの子は好奇心が強い子だから、おそらく。止みそうもない雨に肩を竦めると、尤は小さく指を鳴らした。
 すぐに、左手に赤い傘が現れる。
「俺を呼び出すんだったら、あいつ、持って行く必要無かったんじゃ」
 赤い傘の呆れた言葉に、尤は小さく首を横に振った。

 次の日。
 赤い傘の横で眠る黒い傘に、微笑む。
 散歩は、楽しかった? 尤の問いに、傘は小さく頷いた、ように見えた。

(終)
2017.6.3.  風城国子智(作者の現状と若干の注意)

WindingWind 風城国子智