三叉亭は年中無休ではないらしい

 ぴったりと閉じた、三つ叉の矛が描かれた両開きの扉に、思わず「あっ」と声を上げる。
 「新鮮な海の魚が食べたい」と、冒険者宿『三叉亭』の主人六徳が唐突に言い出したのは、確か昨日の夕方、三叉亭名物のシチューを禎理が頬張っているとき。内陸部にある天楚市では新鮮な海の幸を手に入れることは難しいとはいえ、昨夜の今朝で、もう三叉亭を飛び出しているとは。六徳の素早さに、禎理は舌を巻いた。
 これでは、朝食を食べることができない。動きそうにない扉に溜息をつく。仕方がない。今日は、中央広場にある屋台で何か食べよう。再び小さく息を吐いてから、禎理はおもむろに踵を返した。

(終)
2017.8.5.  風城国子智(作者の現状と若干の注意)

WindingWind 風城国子智