月の欠けたる夜

午前三時
枕の下で目覚まし時計が小さな音を立てる
うっすらと目を開けると
『彼女』は既に起きて空を見上げていた
「早く起きて、晴れてるよ」

薄い布団にくるまったまま、天窓から空を見上げる
西の空で満月が煌々と光っていた
今日は満月。そして、月蝕の日

屋根の上、僕は『彼女』と二人並んで
月が地球の影に入るのを見ていた
周りにあるのは静かな闇と
小さく歪んだ星明りだけ

月は少しずつ光を失い
闇が広がる度に
僕の周りに『人』が増えてゆく

男や女、巨人に小人
色々な格好をした色々な人が僕の目の前で
闇色のマントを翻して踊っている

それは皆、『虚構の人々』
闇と夢の中に生きる、悲しくて美しく、そして楽しげな人々

「ねえ、私たちも踊らない?」
『彼女』がそう言って僕の手を取る
しかし、僕は首を横に振って
『彼女』の手を優しくふりほどく

『彼女』は一人で踊りの輪に入る
星明り色のスカートを翻すその姿は
とても楽しそうで

『彼女』も『虚構の人々』
そして、僕は……?

月は完全に地球の影に入った
光の加減で赤銅色に染まった月の下で
人々の踊りは最高潮に達する

いつもは見えない色に彩られた、不思議なパーティー
僕はそれを一人眺めている
いつか、あの輪の中に入れるだろうか?

やがて、月が再び自分の姿を取り戻しはじめる
月の欠けが小さくなるにつれ
闇色のマントは一つ、又一つと消えていく

月が地球の影から完全に脱した時
僕は又『彼女』と二人きりになった

「私ももう行かなきゃ」と彼女が言う
しかし、『彼女』は僕が再び眠りに落ちるまで
ずっと側にいてくれた

静かな夜が、もうすぐ明ける

(終)
2002.9.19.  風城国子智(作者の現状と若干の注意)

WindingWind 風城国子智