300字SS 2023年8月

毎月300字小説企画参加作品です。
(お題:鳥)

鳥の翼が無くても

 鳥の翼があれば、何処にでも行ける。
 大木の根元に座り込み、森の木々より高い場所を飛び交う鳥達を見上げていた幼い頃は、ずっとそう思っていた。

 枯草色に覆われた小さな丘の上で、一休みの息を吐く。
 視界に映るのは、街道の向こうに大きく佇む天楚(てんそ)市の南門。
 翼が無くても、何処にでも行ける。開けた大空を飛び交う鳥達に小さく微笑む。北門から旅立った時にはまだ春も浅く、草木の緑も見えなかった。それから三年半。大陸の東にある天楚市から反時計回りに大陸を一周し、そしてまたここに戻ってきた。まだ未踏破の場所があるので再び旅立つのは確定だが、今は、戻ってきたことが、嬉しい。もう一度、大きく息を吐くと、禎理(ていり)は再び歩き始めた。

2023.8.5. 風城国子智