300字SS 2018年6月

Twitter300字SS参加作品です。
(お題:空)

見上げた先には ―狼牙の響―

 見上げた先の灰色の濃さに、小さく唸る。
 これだけの雲で、雨は降るだろうか? 降ってくれた方が嬉しいのだが。自室の窓から見下ろした、緑よりも土色が多い田畑に、蘭は再び「むぅ」と唸った。
 冬に雪が少なかった所為か、今年の田には水が少ない。乾きが多く見える地面に首を横に振る。水が多いのにも困るが、少ないのも。もう一度、暗さを増した雲を見上げ、蘭は今度は大きく息を吐いた。
 その蘭の耳に、低い雷鳴が響く。
 待ち望んでいた雨が降る。崖が崩れるほど強くなければ良いけど。ある意味矛盾する希望に、蘭はそっと、窓を閉めた。

2018.6.2. 風城国子智

夜空を見上げて

 星の位置が、違う。見上げた空に息を吐く。
 やはりここは、トールが暮らしていた場所とは違う、世界。胸の冷たさを覚え、トールはそっと首を横に振った。
「あの星が、北を示す神の三つ星。で、その隣が」
 そのトールの耳に、優しい声が響く。普通の人には『祈祷書』にしか見えない『本』として異世界に転生してしまったトール。そのトールと思考のやりとりができる唯一人の、この世界の人間、サシャの、星を指し示す短い指に、トールは小さく微笑んだ。
 トールを認め、助けてくれるサシャと出会えて、良かった。それが、今のトールの正直な気持ち。サシャが身に着けているエプロンのポケットの中で、トールはサシャの小さな温かさに身を委ねた。

2018.6.2. 風城国子智