300字SS 2020年2月
Twitter300字SS参加作品です。
(お題:包む)
包囲戦
あいつが籠もる砦は、一分の隙もなく包囲した。あとは、あいつが音を上げるのを待つだけ。自軍の兵士達の間に見え隠れする小さな砦に、笑みをこぼす。しかし油断は禁物。神出鬼没なのがあいつ。レーヴェがそこまで思考した、次の瞬間。
「敵襲です!」
背後からの叫びに、振り向きざま腰の剣を抜く。算を乱した自軍の真ん中に見えた、黒のマントと緋色の上着に、レーヴェは舌打ちと共に地面を蹴った。
「砦から目を離すなっ!」
傍らの部下にそう指示し、逃げを見せる兵士達をかき分ける。あいつは、目眩まし。狙いは、砦にいるあいつの部下達を逃がすこと。自分の思考に頷くと、横から現れた黒色のマントに、レーヴェは研ぎ澄ました刃を叩きつけた。
2020.2.1. 風城国子智
麺包作り
小麦粉を水で練り、酒から取った酵母を加える。できた生地をしばらく寝かせ、膨らんできたら、再びこねて形を作る。その生地をまたしばらく寝かせた上で、適温の竈で焼けば、麺包というものができる、と聞いた、はず、なのだが。
「あれ……?」
竈から出てきた、歪に膨らんだ物質の斑な焦げ色に、思わず首を傾げる。
何を、間違えたのだろう? これで失敗は五度目だ。こんなに失敗するのであれば、小麦粉から饂飩やほうとうを作った方がまだ簡単。異国の人々は何故、このように技術が必要である上に手間の掛かるものを主食にしているのだろう? 焦げた苦い匂いを腹に収め、蘭は再び首を傾げた。
2020.2.1. 風城国子智