300字SS　2015年11月

母の写真

　その写真を二度目に見掛けたのは、職場の先輩でもある彼の家に初めて招待された夜のこと。
　明るい並木道を背景に、何処か彼に似た若い男性の横で笑っていたのは、確かに、梓の母。
「それ、親父の若い頃の写真」
　梓の小さな息を聞いたかのように、彼が言葉を紡ぐ。
　この写真を同じものを、母はアルバムに隠してずっと大切にしていた。その事実が、梓を震えさせていた。

　華やかなざわめきに、息を吐く。
「親父、まだ喋ってる」
　今日は俺達が主役なのに。呆れたような彼の声に、梓は静かに微笑んだ。
　二人の斜め前では、梓の母と彼の父が、再会を喜び合っている。
　大学の先輩後輩だったという二人の、穏やかな雰囲気に、梓はもう一度、安堵の息を、吐いた。

2015.11.7.　風城国子智