300字SS 2017年12月

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(お題:贈り物)

小さな贈り物 ―九十九冒険譚―

 膝の上に置かれた、小さな一輪の花に、思わず首を傾げる。
 しかしすぐに、禎理(ていり)は、膝に飛び乗ってきた小さなダルマウサギ族の魔物、模糊(もこ)と一緒にその花をそっと掴んだ。
 片手では余る黄色の塊を、指の腹でそっと撫でる。
 模糊が禎理の膝に花を乗せた理由は、おそらく、家族の墓に花を手向けた禎理を見ていたから。この森で暮らした家族を全て流行病で亡くした時と同じに見える、夏に向かってうっそうと茂る森の木々を、腰を下ろしたままの冷たい地面から静かに見上げる。あの暗い初夏の日々を乗り越えることができたのは、罠に嵌まっていたこの小さな魔物を助けたから。感謝するのは、自分の方。涙を覚え、禎理はそっと、模糊を花ごと抱き締めた。

2017.12.2. 風城国子智

gifted ―狼牙の響―

 漂う鉄の臭いと、視界を遮る赤色に、目眩を覚える。
 この惨状を起こしたのは、自分? 冷たい地面に倒れ伏す、複数の人影を、震える頭で確かめる。頽れた柳(ゆう)の膝が地面につく前に、細い腕が柳の身体を包んだ。
「大丈夫」
 蘭。強ばった唇が、腕の主の名を紡ぐ。
 怒りのままに、全てのものを破壊してしまう。それが、必ず一つの『能力』を持って産まれてくる一族に所属する柳の、力。その忌むべき力を厭わずに、力の制御を教えてくれたのは。
「ありがとう、助かった」
 柳が付けたのではない、焦げ跡が残る傷を消した蘭が、柳をぎゅっと抱き締める。とにかく、蘭が無事で良かった。不死身の能力を持つ、育ての親の温かい身体を感じ、柳は小さく微笑んだ。

2017.12.2. 風城国子智