300字SS
SS企画《俺のグルメFESTIVAL》参加作品です。
拒絶する、あなたへ
そっと、扉を開ける。
ベッドに力無く横たわる、アズの小さな主人、ライが、アズを見て首を横に振るのが見えた。
「ごめんね。でも、何も食べたくないんだ」
そのライに、微笑む。戦場では、その冷徹な行動で敵味方から恐れられているライ。だが、彼が心優しい少年であることを、従者であるアズは知っている。
持ってきた皿の上に乗る、黄金色の柔らかい食べ物を匙で崩し、拒むライの唇に近付ける。牛乳と蜂蜜を混ぜた卵液を蒸し固めた、甘い食べ物。これなら食べてくれるかもしれない。その想いだけで、作ったもの。
小さな欠片を飲み込んだライが、驚きの表情でアズを見上げる。
そして。大きく口を開けたライに、アズはもう一度、微笑んだ。
2015.7.13. 風城国子智