300字SS 2018年3月

Twitter300字SS参加作品です。
(お題:人形)

昔と今と ─狼牙の響─

 頭は忘れていても、手が覚えている。
 ちくちくと、小さな布を接ぎ合わせながら、蘭の口元は知らず知らずのうちに綻んでいた。
 この端切れは、婚礼衣装にした布の残り。蘭が織り縫ったその服を着、現代風の飾らない結婚式を挙げたあの少女にできた子供のために、市販の着せ替え人形用の服を作る。普通の服も、着せ替え人形用の服も、これまでに幾つも作っている。手が覚えているのは、当然。
 本当は人形も作ってあげたかった。が、そこまでこだわる必要は無いだろう。今は昔と違うのだから。出来上がった、蘭が今着ている服を寸分違わず小さく縮めた形に、蘭は大きく頷いた。

2018.3.3. 風城国子智