300字SS 2021年8月

Twitter300字SS参加作品です。
(お題:波)

『魔導書』の問い

[この『電子レンジ』ってやつ、火を使わずにどうやって食べ物を温めてるんだ?]
 冷凍庫から出して温めた御飯を丼に盛り付ける徹の斜め後ろで、古ぼけた本の表紙に文字が並ぶ。
「食べ物の中の水をマイクロ波で振動させて温めてる」
[その『マイクロ波』って奴は、『スマートフォン』で遠くに居る奴と通信するときの『電波』とは違うのか?]
「えっと、それは」
 数学を学ぶ徹の知識だけで、好奇心溢れる古の魔導書が発する質問全てに答えることは難しい。魔導書も乗る小さな卓袱台に丼と味噌汁茶碗を並べながら息を吐く。明日、物理と工学の本を借りてこよう。普段と同じ夕食に『美味そうだな』の文字を並べた魔導書に、徹は小さく頷いてみせた。

2021.8.7. 風城国子智

ウェーブを作る

「あの応援、かっこいいな」
 向かい側の観客席の人々が作るウェーブに、伊藤が唸る。
「俺達にも、できるかな?」
「動き始めるタイミングを少しずつずらして、あとは全員が同じ速さで上下に身体を動かせば、できる、と、思う」
 伊藤を挟んでトールの反対側にいる、休憩する選手達から向かいの観客席へと目を移した小野寺を横目で確かめながら、トールは父の物理の本から得た知識を小さく口にした。
「簡単じゃん」
 口の端を上げた伊藤に聞こえないように、小さく唸る。
 自分と伊藤、そして小野寺。三人だけのチームでは試合すらおぼつかない。最低八人、何とかしなければ。もう一度、伊藤の影にいる小野寺の横顔を見つめ、トールは小さく頷いた。

2021.8.7. 風城国子智