300字SS 2022年4月

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(お題:紙)

不幸の手紙

 情けない声と共に従妹の順が差し出してきた色褪せた紙片を、首を傾げながら受け取る。
 紙片の文章は、同じ手紙を何人かに送付しないと不幸になるという、大昔に流行したとデータベースに記載されていたものに似ている。こんな古いものを、順はどこで手に入れたのだろうか?
「郵便受け、に、入って」
 郵便制度が廃止されたのはかなり前。祖父母の家にあるお飾りの郵便受けに届く手紙なんて無いことは順も分かっているはず。溜め息を飲み込み、南にある山の緑へと目を移す。この手紙は、あの山の向こう、過去と現在が交差する『禁域』から届いたものだろう。迷惑な。俯く順に微笑むと、尤理は何の躊躇いも無く、手の中の手紙をゴミ箱に放り込んだ。

2022.4.2. 風城国子智

自身を構成するもの

 表紙は、やはり鞣し革で板を包んだものになるのだろうか? 固定されたかがり台から、製本師カレヴァの臨時の作業部屋をぐるりと見回す。薄く削られた板と、様々な色を見せる革の置かれ方が乱雑なのは、カレヴァが急遽帝都に呼び戻されたからだろう。
 トールの世界では、本の表紙は、植物の繊維を漉いて作成された『紙』から作られていた。中身も。幻の瞳に映る、僅かに黄色みを帯びた羊皮紙に小さく唸る。この世界では『祈祷書』として認識されているトールを構成する紙は、おそらく羊皮紙だとは思うが、どうも違和感がある。サシャが元気になったら一緒に調べてみるのも良いかもしれない。幻の口からふわりと漏れた欠伸に、トールは気怠く頷いた。

2022.4.2. 風城国子智