300字SS お好み焼き
(『魔導書』に転生した俺と、あいつとの日々。)

お好み焼きをきれいにひっくり返せないと出られない部屋に入ってしまった一人と一冊

 小麦粉を水に溶いたものを薄く丸く焼いた上に、千切りキャベツと豚肉を乗せる。その上から小麦粉生地を掛けてひっくり返せば、基本のお好み焼きのできあがり。
「うまくできた」
 生地がしっかり焼けているのを見計らうのがコツ。へらを握った手の袖で額の汗を拭ったサシャに、大きく微笑む。
「これ、難しいね」
[生地にキャベツと肉を混ぜてから焼く『お好み焼き』もあるんだ]
 野菜と肉にちゃんと火が通っているか確認するサシャに、トールは、もう一つのお好み焼きのことを教えた。
「それ、パンケーキ?」
 素直に首を傾げたサシャに、笑いを堪える。それは、言ってはいけないこと。返事の代わりに、トールは唇に指を置く仕草をサシャに見せた。

2020.6.15. 風城国子智