300字SS 2020年7月

Twitter300字SS参加作品です。
(お題:橋)

小さな橋

 先日の大嵐で流されてしまったので、手近の板を並べて、幅の狭い小川に橋を架ける。
 このくらいの川幅なら、飛び越えることは可能。遠い昔、幼馴染みに負けまいとこの川を飛び越えようとする度に上から下まで濡れ鼠になり、育ての親に怒られたことを思い出し、蘭は肩を竦めた。
「蘭!」
 小さな橋を作った理由、米俵と工具を乗せた手押し車に大きく手を振る。
「米持ってきた。おにぎり作って!」
 大嵐の所為で、『谷』の西側にある蘭の家の裏手、一族の墓地と大巫女様の社がある場所も、倒れた木々で荒れてしまった。早く復旧させないと、大巫女様に怒られる。橋とおにぎりくらい、幾らでも作る。手押し車に続く複数の影に、蘭は深く頭を下げた。

2020.7.4. 風城国子智

渡れません

 全身の震えは、サシャのものかトールのものか。堀の向こうからこちらを睨む蒼い瞳から視線を逸らす。堀に架かる半分だけの石の橋と、日没後の風に揺れる斜めになった木製の橋桁を見張り窓から見やり、トールは首を横に振った。日没から日の出まで、帝都を守るために小さな跳ね橋を上げておくことは、黒竜騎士団の規則。たとえ団長でも、その規則を曲げることはできない。
「ダメですよ、バルト」
 いつの間にかサシャの横にいた黒竜騎士団の副団長、フェリクスが、堀の向こうに声を張る。
 間違っていることは「間違っている」と言う。その勇気も必要。サシャの肩を叩いて微笑んだフェリクスと、震えたまま頷いたサシャに、トールはほっと息を吐いた。

2020.7.4. 風城国子智