300字SS 2022年2月

Twitter300字SS参加作品です。
(お題:祈る)

「祈る」とは?

 落ち着かない。音の無い空間に、無意識に辺りを見回す。
 ラウドの前にあるのは、微笑みを浮かべた女性の形をした、大きな像。ラウドが人質として預けられているこの国では「善神」として崇められているらしい、もの。
 ラウドの横で跪いた、ままごとのような婚約者であるロウサ王女の仕草を真似て、床に膝をつく。周りの人々と同じ仕草で両の手を組んでみたものの、それ以上何をすべきなのか、分からない。「祈れば良い」と、ここを訪れる前にロウサは言ってくれたが、……何を祈れば良いのだろう?
 腕を下ろしたロウサの気配に、閉じていた目を開く。
「何を、祈ったの?」
 あくまで無邪気なロウサの声に、ラウドは微笑むことすらできなかった。

2022.2.5. 風城国子智

合格祈願

「あ、ここにも神社」
 白い息を吐いた伊藤が見つけた小さな空間に、誰にも分からないレベルで肩を竦める。
「お参りして行こうぜ」
 そんなトールを余所に、幼馴染みの伊藤はすたすたと小さな境内に足を踏み入れ、落ち着いた佇まいの社に手を合わせた。
「合格してますように」
 今日は、大学の後期入試の合格発表日。前期は不合格だった伊藤にとっては、もう一人の幼馴染みである小野寺と同じ大学に行けるかどうかが決まる最後のチャンス。
「もうそろそろ、時間」
 スマホの画面を確かめてから、まだ祈っている伊藤の背中に声を投げる。
 ここまで熱心なら、きっと、神様も伊藤の願いを叶えてくれる。春の風に冷たさを覚え、トールは再び小さく肩を竦めた。

2022.2.5. 風城国子智