300字SS 2020年3月
Twitter300字SS参加作品です。
(お題:余り)
余寒と余炎
「三月なのに、寒いな」
炬燵に足を入れて震える相方に、微笑む。
「夏、早く来ないかな」
「夏は夏で、『まだ暑いのか』って文句言うのに」
「うん」
ぼやく相方の言葉を混ぜっ返すと、相方は炬燵机の上に顎を乗せて呻いた。
「最近、春と秋、無くなったな」
「気候は、自分達じゃどうにもならないけどね」
相方の呟きに、頷きを返す。
時々、何もできないちっぽけな自分が、嫌になる。それでも、自分が生きている理由は。
「本当に、何とかならないかな」
炬燵の温かさに目を閉じると、相方の声が快く響く。
「ずっと寒いのも、ずっと暑いのも」
君さえいれば、自分は、暑くても寒くても構わない。目を閉じたまま、僕は小さく頭を振った。
2020.3.7. 風城国子智
余ったから
「これ、バイト先で余ったから、あげる」
その言葉と共にあいつが小さな包みを押しつけてきたのが、一月前。リボンで飾られたその包みは今もそのまま、俺の勉強机の隅に置かれている。
もらったのなら、お返しをするべきだろう。バイト先のスーパーで、綺麗な缶に入ったクッキーを選ぶ。あいつのバイト先の、小さな菓子店の裏で待っていると、閉店時間を30分過ぎてようやく、赤い頬のあいつが現れた。
「これ、バイト先で余ったやつ」
一言だけで、クッキーの缶をあいつの腕に押しつける。あいつの顔も確かめず、俺はその場を走り去った。
迷惑、だっただろうか? 自分の部屋で息を吐く。
一月放置した包みに、俺はそっと手を掛けた。
2020.3.7. 風城国子智