300字SS 2017年10月

Twitter300字SS参加作品です。
(お題:酒)

利き酒in三叉亭 ―九十九冒険譚―

「これが天楚(てんそ)近郊で作られた蜂蜜酒、これが北部産、で、こっちが南部産の蜂蜜酒」
 三叉(さんさ)亭の主人六徳(りっとく)が並べた三つのカップに、目を瞬かせる。どのカップに入っているのも、とろりとした甘い液体。しかし三つの液体に違いがあるかと問われれば、首を傾げるしかない。
「禎理(ていり)にも、できないことがあるんだな」
 肩を落とした禎理の耳に、南方の神官エクサの声が響く。
「俺は全部当てたぜ」
「三種類だからな」
 明らかに勝ち誇ったその声の前に、六徳はもう一つのカップを置いた。
「これがどこの蜂蜜酒か分かるか?」
 挑発する六徳に、にやりと笑ったエクサがカップを手に取る。しかし一瞬で難しくなったエクサの横顔に、禎理は微笑まずにはいられなかった。

2017.10.7. 風城国子智