300字SS 2023年3月

毎月300字小説企画参加作品です。
(お題:おくる)

送り狼

 背後からの殺気に、心の中で唸る。
 黄昏は、もうすぐ闇に変わる。天楚(てんそ)の北門は視界の向こうにあるが、もうすぐ横を通る予定の草深い岩陰に引きずり込まれたら、北門の警備兵からは見えなくなる。先制攻撃は、「先に攻撃した方が悪い」と難癖をつけられる可能性が高い。ならば。
 鋭い殺気が禎理(ていり)の肩を掴む前に、脱兎のごとく地面を蹴る。呼吸が乱れる前に、禎理の身体は天楚の北門の中に入っていた。
「巧い避け方だな」
 いつもお世話になっている天楚の警備隊長大円(だいえん)の声が、禎理の上から降ってくる。
「ここが攻められたときのことを考えると、あの岩は削っておいた方が良いな」
 禎理と同じ考えを呟いた大円に、禎理は門の外を確かめてから頷いた。

2023.3.4. 風城国子智