300字SS 2021年12月

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(お題:箱)

古い裁縫箱

 少しだけ派手になった袖に、小さく笑みを漏らす。
 セーターの繕いは、これで大丈夫だろう。次は。少し太めの針を針山に戻すと、尤は今度は、鋭さが光る新しめの針に黒糸を通した。昨日買いに行った、「九分丈」だと書いてあったにも拘わらず尤が穿くと裾が床に落ちてしまうズボンの丈を直さなくては。
 いったい何年、この裁縫箱と付き合っているのだろう? 昔のアニメ絵が蓋に描かれた、色褪せたプラスチック製の箱をまじまじと見つめる。小学生の頃から使っている箱だが、その頃から入っていた物はもう、この箱の中には無い。箱だけが、健在。
 おそらく、この箱はこれからも、尤と共にあるのだろう。再び微笑むと、尤はズボンの裾直しに集中した。

2021.12.4. 風城国子智