300字SS 2020年5月

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(お題:書く)

筆記具の拘り

「なあ、禎理(ていり)」
 唸るようなエクサの声に、羽根ペンを止める。
「禎理は、筆記具に、『拘り』っていうのは、あるのか?」
 無いと言えば無いし、あると言えばあるかもしれない。唐突なエクサの問いに、持っていた羽根ペンを見つめる。今使っている羊皮紙は、何度か文字を削って薄くなっているものだが、羽根ペンの方は、森で拾ってきた羽根を丁寧に削ったもの。インクも、森で採取した木の瘤と、炭と水を、禎理だけが知っている割合で混ぜて作っている。羊皮紙は高価だから仕方が無いとしても、『拘っていない』わけではなさそうだ。再び、エクサが依頼してきた翻訳結果を羊皮紙に書き記しながら、禎理はエクサには分からないように小さく微笑んだ。

2020.5.2. 風城国子智