300字SS 2021年2月

Twitter300字SS参加作品です。
(お題:運)

運と偶然

 白布が敷かれた床の上に転がった二つの賽に、思わず目を瞬かせる。
 いかさまも多いと噂のある場末の賭場。賭ける前に観察していた、目の前で何度も振られた賽は間違いなく、特定の目が多く出ている細工された賽。こう賭ければ絶対に勝つ。その予想を嘲笑う賽に、伊織は唇を震わせた。
「今日の賽に、細工は無いよ」
 目の前から消えた札に呆然とする伊織の手の中に、先程までは床に転がっていたはずの賽が投げ込まれる。確かに、これは、……普通の賽。
「たまたま、同じ目が多く出ることもあるさ」
 伊織の向かいで艶冶に微笑んだ壺振りの、立てられた膝の白さに居心地の悪さを覚える。手の中の賽を投げ捨て、伊織は賭場を後にした。

2021.2.6. 風城国子智

運命の駄女神はサイコロを振る

 いきなり襲ってきた不定形の怪物に、考える前に身体が動く。
 チートもスキルも見当たらないこの身では、逃げるしかない。
「あなた、間違って死んでしまったのよねぇ」
 闇雲に走る洋一の脳裏に、投げやりな声が響く。
「元の世界に戻すわけにはいかないから、適当なところに適当な能力で転生させてあげるわ」
 トラックに轢かれたはずの洋一の前に現れた、『女神』と称する白い服の女性は、そう言って、洋一の前で手の中のサイコロを振った。その結果が、今の、訳の分からない怪物に追われている現状。
 この状態を、どうしろと。怒りを覚える前に、怪物の臭い息が洋一の全身を覆う。真っ暗になった視界に、白い服の女神は、……現れなかった。

2021.2.6. 風城国子智