300字SS 2023年4月

毎月300字小説企画参加作品です。
(お題:靴)

長靴を履こうとしたキイロダルマウサギ

 何故ニンゲンは靴を履くのだろう? 火の側で長靴に油を塗っている禎理の、ふっくらとした足の甲に頬を擦り寄せる。柔らかな足を守るため、だろうか?
 模糊の足もふわふわだから、守った方が良い。そう思いながら、禎理のもう片方の長靴に足を入れてみる。だが次の瞬間、模糊の半身は、長靴の中にすっぽりと収まってしまった。
「模糊も、靴、履きたい?」
 模糊を長靴から引っ張り出してくれた禎理が、僅かに首を傾げる。
「でも、靴を履くと、着地したとき音がするかも」
 それは、困る。禎理の言葉に首を横に振る。禎理が守ってくれるとはいえ、用心に越したことは無い。やっぱり、靴は要らない。もう一度、模糊は禎理の足に自分の頬を強く擦り付けた。

2023.4.1. 風城国子智