300字SS 2018年2月

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(お題:試す)

試す

 ごつごつとした掌が、柄を掴む。
 強く見えたその手はしかし、この堅固な岩の間から我を引き抜くことができなかった。
 これで、良いのだろう。絶えた気配に息を吐く。
 その昔、戦乱を鎮めた偉大なる王が祈りと共に地面に刺した剣。その剣を抜いた者には王と同じ力が宿るという噂を聞きつけ、この場所に来て剣を、我を抜こうとする戦士は多い。そんな力、我には無い。そっと、首を横に振る。あの戦いを制することができたのは、あいつの力。
 このまま、ここで朽ち果てるのが、我の、そしてあいつの望み。どこまでも穏やかな気配をしっかりと確かめる。それで良いのだ。永遠を望む祈りを風の中に投げると、意識は再び眠りに落ちた。

2018.2.3. 風城国子智

試される

 目の前を右拳で殴ると同時に、背後の気配に左肘を入れる。
 膝、踵、そして自分より背の高い相手には頭突き。息つく間もなく向かってくる鋭い気配を寸前で躱しながら、尤は全身を武器にして、自分を傷つけようとする相手を悉く地面に沈めた。
「……これで、良い?」
 攻撃の手が消えたことを確かめてから、荒い息を背後に向ける。
「ああ」
 子供の声が、尤の耳に響いた。
「それで、依頼内容は?」
 近づいてくる小さな影に向き直り、短く言葉を吐く。
 新規の用心棒を試すためだけにこれだけの人間を犠牲にする雇い主だ、きっと、面白いことが待っている。自分が地面に伸した者達を見回してから、尤は、余裕の笑みを浮かべた依頼主に大きく会釈した。

2018.2.3. 風城国子智