300字SS 2023年1月

毎月300字小説企画参加作品です。
(お題:初)

初雪降る

 白いものがふわりと、禎理の視界をかすめる。
 雪? ……まさか。空を見上げると、葉を落とした木々の向こうに見える灰色から落ちてきた白い欠片が二つ、禎理の頬を冷たく濡らした。禎理の予想よりも早い、冬の訪れ。
 困惑を覚え、辺りを見回す。幸いなことに、落ちた白の破片はすぐに、地面の枯れ葉や石の色に変わっている。まだ、積もらない。安堵感に、禎理は唇を横に引き結んだ。禎理が拠点としている天楚の街には、あと三日もあれば辿り着ける。それまでに、積もる雪が降らなければ、大丈夫。今日中に乾いた洞窟を見つけておけば、突然吹雪いても何とかなるだろう。刺すような風に抗うように、禎理は小さく微笑んだ。

2023.1.7. 風城国子智

初日の混乱

 アスファルトの道を、焦燥のままに蹴りつける。
 ようやく得た仕事の初日だというのに、寝坊してしまった。左手首に巻かれた腕時計が示す時刻から目を逸らす。あと十分で、信号三つ分先に見える高層ビルの二十階にある新しい上司の部屋まで辿り着けるか?
 歩行者信号の赤に、苛つきながら足を止める。
 見覚えのある人物が操るオープンカーが目の前に止まったのは、丁度その時。
「良いタイミングだ」
 新しい仕事の面接時に上司の横にいた人物が、にやりとした笑みを向けてくる。
「乗れ。今から現場に向かう」
 思いがけない言葉に、思考が混乱する。おそらく新しい上司の命令なのだろう。そう判断すると、彰は車の助手席に滑り込んだ。

2023.1.7. 風城国子智