300字SS 2020年11月

Twitter300字SS参加作品です。
(お題:服)

裁縫好きな領主

 因縁を持つ隣国との国境沿いに位置する小さな辺境伯領の領主、ラドは、気まぐれで、何を考えているのか分からなくなる主人。今日も、国境沿いに不穏な動きがあるというのに、大きめのテーブルの上に布を重ねて一針一針丁寧に縫い止めている。
「よし、できた」
 従者である自分に向かって飛んできたずっしりとした上着を、何とか受け取る。
「鎧の下に着ろ。怪我をされては困るからな」
 次は、集まってくる農民達に着せる揃いの上着の修繕だな。口の端を上げた主人に、口をパクパクさせる。気を遣ってくれるのは、嬉しい。だが、ラド自身の鎧下地は大丈夫なのだろうか? しっかりとした上着を抱えたまま、カイは主人の後から階下の倉庫へと降りた。

2020.11.7. 風城国子智

昔の服

「これ、どうやって着るの?」
 虫干しの手伝いに来ている寧が両腕で抱えた厚手の生地に、思わず微笑む。
 まずは、コルセットで腰を細くする。膨らんだスカートを支える張り骨を穿いてから、糊のきいたペチコートと袖無しの下着を着、その上に、あちこちにフリルを散りばめた一番華やかなコート状のドレスをまとう。そうそう、ボンネットと手袋、日傘も忘れないようにしなければ。そんな感じで、昔の少女達はおしゃれを楽しんでいた。
「……重い」
 物思いにふける蘭の耳に、寧が吐いた溜め息が響く。
「しかもきつすぎ」
 コルセットも張り骨も付けていないのに。着たばかりの古いドレスを脱ぐ寧のしかめっ面に、蘭は微笑まないように唇を横に引いた。

2020.11.7. 風城国子智