300字SS 2021年4月

Twitter300字SS参加作品です。
(お題:道/路)

分かれ道の迷い

 林の中で二股に分かれた道に、小さく唸る。
 どちらかが、目的地に向かう道。だが、どちらが正しい道なのかが分からない。どちらに行けば良い? 明るい鳥たちの声を聞きながら、禎理(ていり)はそっと辺りを見回した。地図に無い道だから、手がかりになりそうなものは何も無い。あまり使われてないらしく、どちらの道も下草と殆ど見分けがつかない。目的地の方角で決めようにも、あいにくの曇り空。梢の向こうの灰色を確かめ、禎理は再び小さく唸った。
 間違えていたら、戻ってくれば良いか。心の中の言葉に大きく頷く。幸い、食料の余裕はある。腰のポーチから出したハンカチを手近の枝に結びつけると、禎理は、こちらだと思う道の方へと歩を進めた。

2021.4.3. 風城国子智

路面電車に乗って

「今日は、どっち?」
「『産業』だから、五番の電車」
 はしゃぐ妹の声に、まだ電車がいないホームを指差す。
 できつつある列に並ぶ人々は、皆、大荷物。
「今日、あのサークルさん居ると良いな」
 列の後ろに並ぶ妹の声を聞きながら、背中の重みを確かめる。頒布物も、敷布も、ディスプレイ用の小道具も全て、昨夜リュックサックの中に突っ込んだ。表紙に絵がないオリジナル小説は、便箋やグッズばかりの地方の同人誌即売会では見向きもされない。それでも、同人誌即売会にサークル参加してしまうのは。
「あ、電車」
 車に並走しながらホームに滑り込む古い車両に、妹が微笑む。
 小さく肩を竦めてから、私は妹に続いて路面電車に乗り込んだ。

2021.4.3. 風城国子智