300字SS

獅子の傍系スピンオフ作品。

そのスープは誰のもの?

 自身に縁のある人物を助ける為に、時空を超える。それが、古き国の騎士達が過去や未来に『飛ぶ』理由。それでも、死にそうなほどに腹が減っているロボの前に、ラウドが都合良く現れるとは。しかも湯気の立つ鍋を持って。目の前の小柄な青年に、ロボは口の端を上げた。
「何故飛ぶ……」
 一方、ラウドの方は、ロボを見て口を尖らせる。探索に疲れた従者の為に、捕まえた兎で香草入りスープを作ったのに。何故ロボなんかに食べさせないといけない。ラウドの言葉に、今度はロボが頬を膨らませた。
「でもさ、このままスープが冷めてしまうのも、勿体無いよな」
 ロボの言葉に、ラウドが渋々頷く。
 差し出された熱々の鍋を、ロボは満面の笑みで受け取った。

2016.7.2. 風城国子智

異なる味の

 昔食べた味を思い出しながら、焚き火に吊した鍋の中身を味見する。少し、違う気が、する。足下でロボのマントにくるまって眠る幼いラウドの、まだ荒い息を見下ろし、ロボは深く息を吐いた。
 昔と今とで、土地に生えている草花は変わらない、はず。成長し、古き国の騎士団長として辣腕を振るったラウドは、一体何を兎のスープに入れていたのだろう? その秘訣を、怪我の所為で熱が出ているちびラウドに訊こうとして、ロボは苦笑した。おそらく、あの味は、ラウドが成長する過程で、誰か大切な人に教わったもの。今のロボがすべきことは。歴史を変えないよう、元気なラウドを過去に戻すことができるように、ロボはラウドを起こしてスープを飲ませた。

2016.7.2. 風城国子智